●寺尾十志大(俳号)
●日之影町在住
●俳句同人「交響」所属
●ふるさと日之影での生活の中で、人々の暮らし、四季の風景をモチーフに作句。
枯菊といふ一点の野の光
時雨や霜に傷つきやぶれ、やがては枯れてゆく菊は、その盛りが華やかであっただけに一層哀れ深いが、その中でもまだ花を保っている菊もある。
その姿も又哀れなのだが、それでも最後まで咲き誇らんと野に光を放っている。
画像:延岡市吉野町
バインダーと呼ばれる歩行用の稲刈り機で刈った稲は、「干すベー」と命名されたスチール製の掛け干し竿に、稲束を4:6の割合で内外に分けて掛け、1週間ほど天日で乾燥させる。
以前は樫の木や竹で掛け干し用の馬を作っていたが、今はあまり見かけなくなった。
束の基は雨に濡れると乾きにくいので、ビニールをかぶせておく。
この田は迫田で、稲に欠かせない水も天からのもらい水。いわゆる天水田だ。農地を有効活用しようという圃場整備の網がかからなかった地区だが、大学誘致と高速道路開発の波にさらされ、ただ1枚残った田である。
手間ひまかけて作った米のおいしさは格別で、「ここの米はおいしい」の声が、農作業に従事する者の疲れを癒してくれる。
(撮影・解説 牛飼い様)
菩提寺の坊守は同級生。
住職は盆栽が好きで、寺にはたくさんの花木が育てられている。
そのうちのひとつに榠櫨があり、卵大の実を付けている。
どちらが育てているのか分からないが、大切に育てられ、実になった姿は坊守に似つかわしいと思った。
因みにこのお寺にも五月に新坊守が来て、新たな一歩を踏み出した。
画像:日之影町真楽寺(photo by 深角駅長)
お寺の片隅に 丸い実を付ける花梨の実
心優しい住職さんが 大事に育てだであろう丸い実
優しい笑顔とともに いつまでもそだってほしい 花梨の実
小鳥来る出航前の二三隻
吟行句。
秋になると様々な鳥が渡って来る。
無論、秋に内地にいて内地の他の場所に移動する鳥も渡り鳥として詠まれる。
小さな湾内にある小漁港で、船も大きなものではなく近海物を獲る漁船だろう、舫(もや)われた船の辺りを大きな群れの鳥たちが泳ぎ回っている。
小漁村の早朝の姿がある。
写真撮影 深角駅長
延岡市から北浦へ続く海沿いの旧道は、今はバイパスの開通で車も余り通らない。
雄大な太平洋を眺めつつ、時には山を越え曲がりくねった道路を走ると、山あいに点在する小さな港が見えてくる。
沖合いには、県指定ブランド「北浦灘アジ」「北浦真サバ」「宮崎カンパチ」の漁場がある。
静かな山間の港には、おこぼれの魚を求め、また静かな入り江で翼を休める鳥達が遊ぶ。そして今日も、漁を求め 数隻の小さな漁船が港を出て行く。
晩夏光
砥石均すも
業の内
農業で正業を立てるほどの田畑はないのであるが、鎌や鍬などは機械化が進んだ現在でも必要な道具である。
その道具をすぐ使えるようにしておくのも、大事な農業の仕事なのである。
砥石もその道具のひとつ。光るものに焦点を当てて作った一句。
撮影:日之影町中川集落(photo by 牛飼い様)
中川集落は、春のチューリップ祭りで村おこしに取り組んでいる。
しかし、その賑わいはつかの間。
田起こしから荒代かき、代かきを経て田植え。
また、和牛の飼料となるトウキビ作りと、山里の農業に休む間はない。
網はカラス除け。この防鳥ネットを張るのもひと苦労なのである。
昼間は平地と変わらず暑い山里だが、夜はクーラーいらずの涼しさである。
雲の峰より
現れて雲の峰
積乱雲はいつでも起こるのであるが、「雲の峰」といえば夏の積乱雲のことで、
垂直に延びた濃い雲が巨大ないろいろな物を想像させる。
その雲の峰が下の雲の峰を凌駕して、また大きくなっていく。
リフレインが似合う季語である。
撮影:日之影町宮水地区にて(photo by ハムサンド)
実際には竹の揺れが木に及ぶなどということはないのであろうが、
梅雨前の風の有り様を考えるとそう思えるから不思議である。
小さい物から大きい物へと影響を与えて、やがて本格的な梅雨がやって来る。
画像:深角の山を臨む竹林。(photo by 深角駅長)
青春の
楽譜をめくる
若葉風
この句は、昨年の同窓会を開いた時のことを詠んだ句です。
中学校を卒業して40年も経つと、いろいろな感情が湧き楽しい時間でした。
それにしても、若いころの友人はいいものだといつも思っています。
photo by 羽衣あられ
この邑の
刻はゆるりと
桃の花
まだ桜には早いころ、五、六戸の集落を尋ねた。
集落に向かう途中、谷沿いの山腹に淡紅色の花をつけた桃の花がびっしりと咲き誇っている。
田舎でしか味わえない風情を感じる瞬間だ。
そして、ここに住む人々にもゆっくりと時間が流れているに違いない。
画像:日之影のとある集落に咲く紅梅(深角駅長)
春疾風
山もちあげて
山に入る
三、四月の候は、異常に感想した日が続き、また疾風が定常的に長時間巻いて吹く。向かいの山を見ているあの木々の様子はまさに山を持ち上げて山に入っているようだ
画像:日之影町深角地区遠景(深角駅長)
枯蔓を
解きて一樹の
位を正す
家の近くに枇杷の大樹がある。夏から秋にかけて、木の頂まで上り詰めた蔓は、今や葉を落として枇杷の木にしがみついている。それを一本一本外してやると、人も木も春に向かって胎動しているように思う。
今、猟期の真っ盛りで、少しだけ山に入るとたまに銃声が響く。
その後、高齢の猟師達が獲物へと急ぐのだろうが、そんな物音は何も聞こえない。
ただ、寒山の静寂だけが迫ってくる。
画像:日之影町と諸塚村の町境にある諸塚山の登山道(深角駅長)