鬼嫁にはもちろん内緒だ

鬼嫁にはもちろん内緒だ
そういえば、そんな日だったのか。

先週末、街に鬼嫁と買い物に行った。

ショッピングビルのフロア。
あの瞬間は鬼嫁が前を歩いて、おれは後ろに。

ふとなにげに視線を下に落とすと、階段の片隅に丸まったゴミが。
くしゃくしゃ丸まったゴミ。

だと思ったが、
あの紙の風合い、色、サイズ感…、

明らかにお札だ……
お札だ!!!

でも、明らかに丸まってて、どう見てもゴミ、だよね?
これは、ゴミ、だよね?
どう見てもゴミ、だと判断して良いだろう!ヒャッホーイ!

明らかにお札の状態で落ちてるなら、
そりゃ、どこかに届けますよ。
いいとしの大人だから。

でも、ゴミだから拾ってあげよう!

鬼嫁に気付かれないように、そっとそのゴミを拾ってジーパンのポッケへねじ込む
…。
おっと、勇み足立って、平坦なのに躓いてしまったぜ。

「ちょっと、トイレ行ってくる」と鬼嫁に伝え、鬼嫁はそのフロアのしまむらへ。
しみったれた買い物やのお。

一ヶ月に数千円でやりくりしているおれにとっては、これがお札なら…!
ましてや、千円、いや、五千円、いや、壱万円なら!
鬼嫁よ、しまむらならトータルコーディネートで一週間分くらい買ってやるぞ。
おっと、いきなりの派手な金遣いだとバレてしまうな。
引き締め、引き締め。

便意をもよおしたわけでもないのに個室へ。

ポッケからそのゴミを、出す。

しわくちゃを、広げる。

『こども銀行 1000円』

と、書いてある。しかも、ちょっと小ぶり。

ああ、そうか。
街はハロウィンで賑わってた。パレードみたいのもやってた。
仮装行列や、紙吹雪とか今日はなんかゴミが街のあちこちに散らばってた。
多分その、なごりなんだ。

おれは、広げたこども銀行発行の1000円札をもう一度くしゃくしゃにして、
トイレ個室の片隅に。優しく、目の付くか付かないかのところに、ぽいっと。

一瞬のときめきを、次の誰かに。

同じように鬼嫁にしいたげられている旦那に
一瞬の歓喜を。

実はそうやって、誰かのときめきのおすそ分けがおれにも巡ってきただけなのかも。

トイレを出た俺は、何もなかったかのように、用を足してきたかのように、
しまむらで150円の靴下を品定めしている鬼嫁のところに舞い戻った。

「こっちの200円の方もいいじゃん」とかなんとか言っちゃって。
もちろん、この“ときめきエピソード”は鬼嫁には内緒だ。
会社員40代♂の日々の戦いブログ。